ニューヨークのマンハッタン。一歩外に出れば、3つ角を曲がるだけで10軒のカフェやカフェスタンドがあります。これほどの激戦区で、なぜあるカフェには毎日行列ができ、常連客で溢れているのでしょうか?
コーヒースタンドのエピソードについては、以前以下のブログを書きました。

今日は私が4年間のNY生活で学んだ結論をお話しします。実はこれ、ビジネスでも人間関係でも使える、とても強力な手法なんです。
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平日の朝、メインストリートには1-2ブロック置きに、ほぼ同じメニューのコーヒースタンドが並びます。価格も品質も大きな差はない。それなのに、なぜ人は特定の店を選び続けるのでしょうか?
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4年間、毎朝のように通い続けて分かったこと。それは「商品」ではなく「人」が決め手だということでした。
「選ばれる人」の3つの特徴
これまで私が「また行きたいな」とリピーターになったお店は数軒ありますが、その中で私の感じたお客さんに「選ばれる人(お店)」の共通点をお伝えします。
1. 相手の顔、好みを憶えている
私はカフェやコーヒースタンドが大好きです。前者は滞在してゆっくり過ごしたり、勉強する場所、後者は出勤前にテイクアウトする場所と使い分けていますが、それぞれのお店には贔屓にする理由があります。
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それは総じて「お客の顔と好みを憶えている」ことです。
最初は普通のやり取りから始まります。「何にしますか?」「ミディアムコーヒー、ミルク入りで」「〇〇ドルです」。
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でも、10回ほど通ったある日のこと。私の番が来る頃には、私がいつも頼む「ミルク入りのミディアムコーヒー”medium coffee with milk”)」を用意してくれているようになりました。
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その瞬間、私は「特別なお客」になったような気がしたのです。
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なぜこれほど印象的だったのか?
考えてみれば、店主は毎日100人近いお客さんと接しています。その中で、私という一人の存在を覚えていてくれた。私の好みを記憶し、先回りして準備してくれた。このことは私にとって、単なる「良いサービス」を超えた瞬間でした。
2. 一言プラスの会話
また通いたくなるお店の人は、忙しくても会話を忘れません。
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普通の挨拶:
「おはようございます」
「ありがとうございました」
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一言プラスの挨拶:
「おはようございます、今日は寒いですね」
「週末はどうしていたの?」
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お客の側としては、この「プラス一言」が嬉しいものです。
年明けから通い始めたコーヒースタンドは職場の1本先の通りにあります(以前通っていたところは引越をして通らなくなってしまいました)。ここはたまたま地下鉄で通勤した日に通りかけたのがきっかけでした。でも店主さんがとても感じが良いので、私はその道を通らない日でもここに通うようになりました。
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店主さんから話しかけてくれることはありましたが、大抵私の行く時間は他にもお客さんがいます。私はもう少し会話を広げたい気持ちがありましたが、何となく、必要以上に話を続けることは悪いような気がして遠慮していました。
でも、その日は他にお客さんがいませんでした。私はお金を渡した後、勇気を出して話しかけてみました。
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私:「あなたはどこから来たのですか?」
店主:「どこに見えますか?」
私:「え?アジアのどこかかしら?」
店主:「モンゴルですよ」
私:「モンゴル!日本ではモンゴル出身の相撲レスラーが多いのですよ」
店主:「もちろん、知っています!」
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たった1分弱の会話でしたが、このことで、私たちは「店員と客」から「知り合い」になりました。ちょっとしたことですが、「この人はモンゴル人」「日本人」という「秘密」を共有したことで、以前より親しくなれた気がしました。
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NYの朝の忙しさの中で、なぜこんな会話ができるのか?
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彼らは忙しい時間の中で、効率よくコーヒーを提供することが求められています。でも、それだけでは「ここではないどこか別の店」と変わらなくなってしまいます。
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彼らは「効率」と「人間性」を両立させる天才でした。注文を受けながら、コーヒーを入れながら、お金を受け取りながら、自然に会話を織り込んでいく。
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これは単なる「接客スキル」ではなく、人との「つながり」を大切にする哲学の現れだったのです。
3. 「次回に繋がる一言」を残す
別れ際の一言も、その人の気持ちが表れます。社交辞令かな、と思っても、こんな風に言ってくれると嬉しかったものです。
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「良い1日(週末)をお過ごしください」
「月曜日、また元気な顔を見せてくださいね」
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特に印象に残っているのは、私がしばらくお店に行けなかった時のこと。久しぶりに顔を出すと、「お帰りなさい!」と大歓迎してくれたこともありました。
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毎日100人以上のお客さんが来るのに、一人の客が数日来ないことに気づく。そして、再び来た時に心配の言葉をかけてくれる。これは「私のことを憶えていてくれたんだ」と認識できた、とても嬉しい瞬間でした。
日常生活での応用例
では、この「選ばれる人」になる技術を日常のさまざまな場面でも応用してみてはどうでしょうか?
人間関係の構築
表面的なアプローチ:
「元気ですか?」
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もう一歩進んだアプローチ:
「〇〇さん、先日ゴルフを始めた、とお聞きしたけど、その後いかがですか?」「■■くん(ワンちゃんの名前)はお元気ですか?」
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相手の名前や、飼い犬の名前、以前話した内容を覚えていることを示すだけで、信頼関係は格段に深まります。これは「あなたや、あなたとの会話を大切にしている」というメッセージの現れだからです。
優秀な営業マンは顧客との会話をメモに取り、次回会う時にその話題を持ち出すそうです。次回誰かに会った時、相手が話した内容を覚えていることを示すだけで、信頼関係は格段に深まります。
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特別なスキルは必要ありません。ただ、相手の話に関心を持ち、覚えておく。それだけで、あなたは多くの人にとって「特別な人」になれるのです。
職場で同僚に
一般的な声かけ:
「お疲れ様です」
印象に残る声かけ:
「昨日の資料作成、お疲れ様でした。グラフの使い方、とても分かりやすかったです!おかげでプレゼンがスムーズにいきました」
具体的な行動を覚えていて、それを評価する。これをされて嫌な気持ちになる人はいません。
むしろ「またお役に立てるならやってみようかな」という気持ちになってもらえること請け合いです。そして、こうした小さな積み重ねが職場の雰囲気も良くしていきます。
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なぜこれが効果的なのか?
人は誰でも「認められたい」「価値のある存在だと感じたい」という欲求を持っています。あなたが相手の貢献を具体的に認めることで、その人の自己肯定感が高まり、結果としてあなたへの好感も高まるのです。具体的な行動を覚えていて、それを評価する。それをされて嫌な気持ちになる人はいません。「またお役に立てるならやってみようかな」という気持ちになってもらえること請け合いです!職場の雰囲気も良くなりますよ。
上司に対して
形式的な感謝:
「ありがとうございました」
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心に残る感謝:
「昨日は会議に出ていただき、ありがとうございました。○○について皆の前でご意見をいただき、とても助かりました。○○部長はいつもとても自然に話を進めてくださり、私たちもとても勉強になっています。ありがとうございます」
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上司も人間です。自分の仕事や考え方を理解し、認めてくれる部下を忘れることはありません。
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上司の立場から考えてみると
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多くの上司は、部下からの一方的な報告や相談は受けても、自分の仕事ぶりについて具体的なフィードバックをもらうことは少ないものです。
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だからこそ、あなたが上司の具体的な行動や考え方を評価する言葉をかけることで、上司にとってあなたは「理解してくれる貴重な部下」になるのです。
実践のコツ:小さく始める
NYに来た当初、私もまだまだ典型的な「日本人」でした。控えめで、なるべく迷惑をかけないよう、必要最小限の会話しかしないで1日を終えることも少なくありませんでした。でも、それでは誰の記憶にも残らないのです。
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転機となったのは、ある小さな行動でした。
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まず、日々の挨拶に少しずつ「プラスのひとこと」を加えていったのです。
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・「○○さん、週末はゆっくりできましたか?」
・「おはようございます。今日は暖かくて気持ちいいですね」
・「お疲れ様です。何かお手伝いできることはありますか?」
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最初は少々気恥ずかしかったのですが、こんな風に話しかけると、相手の表情がパッと明るくなったり、それから話をすることが増えたり、と予想以上に良い変化がたくさんありました。
なぜ「選んでもらえる」ことが重要なのか
競争の激しい現代社会で、「替えの効かない人」になることは、大きなアドバンテージです。
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仕事で:
- 昇進のチャンスが増える
- 重要なプロジェクトに選ばれる
- 困ったときに助けてもらえる
- 紹介や推薦を受けやすくなる
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プライベートで:
- 友人関係が深まる
- 新しいつながりが生まれる
- 人生がより豊かになる
- 困った時に支えてくれる人が増える
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でも、最も重要なことは、これらのコミュニケーションで「相手も自分も幸せになる」ということです。
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人は「認められたい」「覚えていてもらいたい」という根本的な欲求を持っています。あなたが相手を覚え、関心を示すことで、相手もまた特別な気持ちになれるのです。
今週、職場や出先で3人の名前を覚えて、その人にしかできない「ひとことプラス」の声かけをしてみてください。
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例えばこんなイメージです。
- 受付の方への「いつもありがとうございます」
- 清掃スタッフの方の「おかげで気持ちよく働けます」
上司/同僚への「○○の件、助かりました」
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きっと、あなたも「選んでもらえる人」になれるはずです。そして、一週間後、周りの人の反応がどう変わったか、振り返ってみてくださいね。
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覚えていてください。あなたが誰かを選ぶことで、あなた自身も誰かに選ばれる大切な人になるのです。
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